鷺巣 詩郎 Shiro SAGISU Official Website

INFO(S)

=Shiro SAGISU Music from “SHIN EVANGELION”=
(鷺巣詩郎によるライナーより抜粋)

2021.03.10 Wed(2021.03.16 Tue 《hand of fate》追加更新)


《hand of fate》

編曲: 鷺巣詩郎
独唱と合唱: Hazel Fernandes
演奏: 松下 誠 斎藤ノヴ The London studio orchestra

 さだめは誰の手の中に……と意味深ながら場面にうってつけの、この歌モノ(業界用語でヴォーカル曲の意)を書いたのは2006年、新劇場版制作が決まった直後。同年9月に庵野監督の所信表明が公表されたが、その2ヶ月前に鷺巣は再始動を知った。そのとき監督から「歌モノも必要になるでしょうから、早めにいろいろ作っておいてください」と請われ、ロンドンに戻り最初に書いたのがこれ。『序』の音楽の大部分はTV版再構築だったゆえ、新たに書きおろすほうから取りかかったというわけだ。楽器メロディをマイク・ウィズゴウスキに送り、マイクが詞を持ってきて仮歌を録るまで3日とかからない。鷺巣もマイクも基本「風まかせ」の吟遊詩人。やりたいように自由にさせると仕事が早い。仕事だと思ってないからだww なのに二人一緒に30年も仕事を続けてるwwww
 ベテラン・シンガー、ヘイゼル・フェルナンデス=Hazel Fernandesとも27年になる。元ジ・アフェア、現ジャミロクワイのメンバーでヒット曲も多く、『ノートルダム』主役はじめ多くのミュージカルでも活躍する大物。フランス人シンガーのアルバムで初仕事以来、わがMASHに参加してもらい一緒にツアーもした。高橋洋子とデュエットさせたことも。アニメ『BLEACH』(2004~12)にて黒崎一護のテーマ《Number One》を歌い、世界中のアニメファンにもその名が知れ渡った。
 マイクとヘイゼルの仮歌と本チャンは2006~12年ロンドン録音~松下 誠のギターは(コロナに先んじて)2012年リモート宅録~オーケストラは2017年ロンドン録音~斎藤ノヴのパーカッションは2020年ZOOM、Audiomoversという最先端環境でリモート録音……とまぁなんとレコーディングに15年もかけた。このあたりは「はじめに。」でも触れた通り。きわめて贅沢な「新劇エヴァの歴史そのもの」の歌モノとなった。


opus 117 pour guitare et orchestre《paris》

作品117番 ギター オーケストラ 合唱
リズム編曲と演奏: CHOKKAKU
管弦楽と合唱編曲: 鷺巣詩郎
演奏: The London studio orchestra
合唱詞: Mike Wyzgowski
合唱: Catherine Bott Deborah Miles-Johnson
Andrew Busher Michael George

 『破』でもそうだった。冒頭のキモい敵に同じ7拍子で立ち向かう! 差異は《L’Agresseur》がピアノ・シーケンスで、この《paris》はギター・シーケンスが支配している点。どちらも「3+4」型の7拍子なのは単なる手クセ。往年のロックにおける7拍子の名トラックと言えば、ピンク・フロイドの《Money》とオールマン・ブラザーズ・バンドの《Black Hearted Woman》だが、鷺巣が好んだのはシカゴの《Goodbye》とアイアート・モレイラの《Tombo in 7/4》。エヴァ音楽が得意とする気味悪げなシーケンス類のアイデンティティはアイアートやエルメト・パスコールなどのブラジル派や、言わずと知れた奇才フランク・ザッパからの伝承でもある、と自白しておこうか。ただし、この7拍子音列をナイロン弦ギターで奏でたのはCHOKKAKUの仕業。その慧眼こそ《paris》の魅力であり、大きな勝因でもある。さすがCHOKKAKU! オイシイとこ持ってくな~ホント。
 2019年8月に配信済だが今回はヴァージョン違いのフルサイズ合唱入りを収録した。ルネ・クレマンの映画でも有名な、連合軍が電話口から漏れ聞いたヒトラーの叱咤「パリは燃えているか?」に応えるがごとくマイク・ウィズゴウスキ=Mike Wyzgowskiの合唱詞。 わがツイッター【https://twitter.com/ShiroSAGISU_twi】にて、 2019年7月13日付でオーケストラ・スコアを、2019年7月17日付でギター・シーケンス譜をアップしてあるので、 ぜひご覧あれ。


opus12 symphony《if a cause is worth dying for then be》

作品12番 交響楽 合唱
管弦楽と合唱編曲: 鷺巣詩郎
指揮: Nick Ingman
演奏: The London studio orchestra
合唱詞: Mike Wyzgowski
合唱: Catherine Bott Deborah Miles-Johnson
Andrew Busher Michael George

 80年代型のトレヴァー・ホーンが、70年代型のイエスにかけた魔法が《Owner of a Lonely Heart》のOrchestra Hit=オケヒットだ。要所で鳴る本物のオーケストラの「ジャン!」という派手なTutti=総奏がじつに刹那で衝撃的。奏でたのはオケではなくフェアライトCMIシンセサイザーで、正体はサンプリングされたオケ音源。40年前に1,000万円以上もしたが、当時でもスタジオに大編成オケを呼んで録れば100万円はかかった「ジャン!」が鍵盤ひとつで鳴らせるのだから決して高くない。いずれにしても歴史に残る革命的マシンで、なんと同業の先輩、船山基紀氏も購入した。おかげで同じスタジオ所属の鷺巣も多くの仕事で使い倒せたというわけだ。後にも先にもオケヒットほどの飛び道具、こけおどし、ハッタリは無いと思うし、古今東西えぐいバケモノ登場に最もふさわしい劇伴アイテムだと今なお信じている。ならば本物のオケヒットをジャンジャン鳴らそう!と書いたのが、この《if a cause is ~》。 いわばオーケストラからフェアライトCMIの先祖返り。あ、逆、逆。そのまた先祖こそ生オケだからね!
 冒頭のオケヒット連打部分スコアを2019年8月28日付ツイッターにアップしてあるので「譜面に書くとこうなる」と目視できる。着目すべきは木管群の複数装飾音符。ゼロ・コンマ数秒前に先行する木管群があってこそ「ジャン」の迫力にターボがかかる。つまり装飾音符の駆け上がり無くしてオケヒットは成り立たない、と。100m走決勝のピストルが鳴る瞬間いつもオケヒットを連想する。コンマ2桁秒前に加速加重を開始するウサイン・ボルトの踵のような装飾音符。これぞ音楽が起こす奇跡のひとつだ。


EM20 alterna #2《euro nerv》

EM20 変則第二種
編曲と演奏: CHOKKAKU

 2019年8月配信時は劇中短縮サイズだったので、こちらは本来のサイズで収録した。前者60秒、後者90秒弱とは、まるで劇伴発注書のような尺配分。とくにTVは事前の尺設定が30秒単位なことが多い。さらに「より切りやすく(編集しやすく)」仕上げておく気遣いも作家側には必要。TVでなくとも発注側は、まず30秒単位で考える。監督の「とりあえず90秒で作っといてください」は「とりあえずビール!」みたいなもん。「後で編集します」は「ビール呑みながらオーダー決めます」なのだ。
 またもやCHOKKAKUにヤラれた……途中から入ってくるハンドクラップの連打に打ちのめされるが如し。いつもコテンパンにされる。アレンジも、すべての楽器演奏も、素晴らしいソロも、録音も、ミキシングも、ぜ~んぶCHOKKAKUひとり、という完璧な仕事。これが本当の劇団ひとり。 ∠Rスタジオ(角記号+Rでカクアール・スタジオと読む)は、CHOKKAKUの仕事場でもあるプライヴェート・スタジオの正式名称。平成~令和のヒット・ファクトリーそのもの。
 リズム・セクションによる伴奏だけだが、元々主旋律部分における和音進行「E→F→G→F」自体きわめてフラメンコ的なのだ。ただし主旋律に合わせ「E→F/B→G→F/B」「E→D/B→E→D/B」と、少々ひねりを効かせてある。『シン・ゴジラ』の時もそうだが、CHOKKAKUはいつも鷺巣の「ひねり」に敏感に反応する。スコア集を監修した際に彼自身「このF/Bという分数和音がキモで、カッコいい」とコメントしてくれた。チック・コリアのフラメンコ傾倒は、傑作《スペイン》や『マイ・スパニッシュ・ハート』なるアルバムや相棒アル・ディメオラのスタイルからすぐ読み取れるが、鷺巣の奥底のスペイン熱もCHOKKAKUに速攻見抜かれた。おそるべし!


opus 162《tema principale: orchestra dedicata ai maestri》

作品162番 交響楽
管弦楽編曲: 挾間美帆
指揮: 天野正道
演奏: The Warsaw National Philharmonic Orchestra

 ニーノ・ロータはじめ大作家たちに捧ぐ……『シン・エヴァンゲリオン』のテーマ。
 『Q』にも《Thème Q》というテーマ音楽があった。が、最初からテーマだったわけではない。庵野監督の使い方が《Tout est Perplexe》もふくめ、あまりに象徴的だったゆえ後付でタイトルをそうしただけ。だがこれは最初から『シン~』のテーマにするつもりで書いた。かつてのオーセンティックな「長編大作」感を演出したかったので、オーケストラはワルシャワ国立響を巨大編成で。スタジオじゃなくホール録音。どのくらい巨大かと言えば「木管3管編成=12名、ホルン6名、金管10名、打楽器5名、ハープ、18型ストリングス=70名」の総勢104名。ショパンコンクール開催地でもある国立ホールにて30年間ずっとワルシャワ響を録ってきた鷺巣と天野は「どう書いて、どう振れば、どう録れる」かを知り尽くしている。編曲に《Tout est Perplexe》と同じ挾間を迎えれば大所帯はさらに良く響き、否が応でも盛り上がる。以上の黄金則を踏襲したまでだ。
 いずれにしても庵野監督がタイトルバックに乗せてくれた……結局これに尽きる。
 本編でも鳴るソロピアノ版はじめ、他にも録りためたヴァリエーション=歌唱版、トランペット版、ソロギター版もボーナス収録した。
 悲しいかな映画音楽における大作家時代はニーノ・ロータ(1911~79)で終焉した。昨今ジョン・ウィリアムズもアラン・シルヴェストルも大作家ではあるが、ロータ、エンリコ・マンチーニ=ヘンリー・マンシーニ(1924~94)、リチャード・ロジャーズ(1902~79)、ヴィクター・ヤング(1899~1956)等による怒涛のメロディが銀幕で輝きを放った黄金期はもう遠い過去……そういう意味合いだ。僭越ながら彼らに捧げたい。
 後継の優秀なオルタナティヴたち、フランシス・レイ(1932~2018)、ミシェル・ルグラン(1932~2019)、アンドレ・プレヴィン(1929~2019)も泉下の客となった。神よ、 どうかウラジミール・コスマ(1940~)、アルベルト・イグレシアス(1955~)にはまだ書かせてあげてください。


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