鷺巣 詩郎 Shiro SAGISU Official Website

INFO(S)

=『新世紀エヴァンゲリオン』オリジナルサウンドトラック=
(鷺巣詩郎によるライナーより抜粋)



1995年3月12日を回顧する

わが国の音楽業界にとって歴史的価値が高い、今はなき名門音楽スタジオを3つ挙げよと問われたら、こう答える。
「日本コロムビア赤坂スタジオ、CBSソニー六本木スタジオ、キング音羽スタジオ」。
世界的にも、名門スタジオは近年どんどん閉鎖されている。
理由は簡単で「もう商売が成り立たないから」に他ならない。
だが、この東京の3つのスタジオが閉鎖されたのは90-00年代。
そう、日本の音楽業界が一番景気の良かった時期に、すでに閉鎖されてしまっていたのだ。

他メディアでも同じたとえ話をしたが、
スペインのコルドバにある「メスキータ」(イスラムのモスク)が、
かつてキリスト教徒たちにより教会に建て直されようとした時、
イスラム教徒はこう諌めたという「今あなたが壊そうとしているものは『どこにも無いもの』、
今あなたが造ろうとしているのは『どこにでも有るもの』」と。
その忠告のおかげで、人類は世界遺産メスキータを今なお共有し続けられるのだ。
日本は地震国だから仕方ないという理由もあろう。未曾有のバブル期を経た地上げの疲弊もあろう。
しかし、せめて違った保存方法やアイデアを提唱する者さえ現れなかったことは大いに悔やまれる。
3つのスタジオで録音された音源は山ほどあろうが、
録音場所の記載がすべての音源に明記されているわけではないし、
音源だけでは歴史は点のままで線にはならない。
いつまでも閉鎖を嘆くよりは、
そのスタジオで仕事をしていた我々のような人間が具体的に記述を残すほうが、今となっては重要だ。
70年代は○○時代、80年代は△△時代…との流行史も必要だが、
音楽的、音響的な観点だけは、内側から細かく綴った記録に勝る歴史資料はないのだから。

1957年生まれの鷺巣が、毎日のように都内すべての音楽スタジオを巡って廻る、
この仕事を始めたのは1976年ぐらいだから、75年以前の事実は語れない。
ただ、過去を知りつくした第一線からの伝聞ならば、これまた毎日のように共有していた。
なにせ70-80年代は、スタジオに「サロン文化」があった。
午前中のセッションに集まったミュージシャン、エンジニアが午後には別スタジオに移動し、
また夜に違うセッションで戻ってくるという多忙集散が日常茶飯事だったのだ。
つまり当時の音楽スタジオは、あらゆる決定が成される業界の中枢機能を果たすと同時に、
重要な情報交換の場所でもあった。
SNSなどあろう筈はなく、留守番電話もまだ無い時代にあって、
多様な才能、競合相手、主役も裏方も、皆がひしめき、情報が飛び交う空間…調整室も、ロビーも、
とにかくスタジオ内はどこもかしこも間違いなくサロンと化していた。

共通していたのは、独立した建物ではなく共有ビル内
(コロムビアは自社ビル、ソニーは雑居ビル、キングは講談社ビル)にあり、
第1第2スタジオなど複数の部屋を持ち、かならず大編成オーケストラ録音が可能な大部屋を備えていたこと。
都内一等地ゆえ回転率が良くないと成り立たないビジネスだが、
コロムビアとキングは自社(関連)ビルで、スタジオも社内アーティストの使用に限られた。
それでも回収できていたのだから良き時代だ。
六本木ソニースタジオは外貸しで他社アーティストにも門戸は開かれていたし、
地下には(ソニーとは無関係だが)ライヴハウス「六本木ピットイン」もありライヴが収録可能だった。
ちなみに1978年ソニーは信濃町にスタジオ独立ビルも完成させ、自社アーティスト専用スタジオとした(すでに閉鎖)。
我々は「六ソ(ろくそ)」「信ソ(しなそ)」と呼びわけて往来したが、
よく冗談で「乃木坂には引っ越すなよ『乃木ソ(のぎそ=のぐそ)』になっちゃうから」と笑ってたら、
2001年にソニーは自社ビル統合スタジオを本当に乃木坂に造り、口の悪いミュージシャンたちの溜飲を下げた。
残念ながらスタジオ・ミュージシャンの仕事が激減する90年代後半から、
しだいにサロン機能は自然消滅していき、そんな冗談さえ聞かれなくなってしまった。

(続きは、ぜひ2枚組LP中面をお読みください。なんと、この6倍以上で総量およそ10,000字の長文ライナーです!)




=『進撃の巨人』オリジナル・サウンドトラック=
鷺巣詩郎による各曲解説(ライナーより抜粋)



01 Le Soleil d'Or

今作を通し鳴っているオーケストラは「The London Studio Orchestra」。
ハリウッドを頂点とする映画音楽界において、まごうことなき世界一のオケ。
Isobel Griffithsによって招集され、Perry Montague-Mason をリーダーとする面々は、
その名が列挙されないブロックバスタ(ハリウッド大作)を探すほうが困難なほどだ。
編曲の天野正道、指揮者 Nick Ingman、The London Studio Orchestra、
彼等は皆、鷺巣の音楽に絶対欠かせない、長年の固定メンバーである。


02 War Song

合唱詞は、スコットランドが誇る詩人 Mike Wyzgowski のペンによるもの。
四半世紀にわたり、鷺巣と「詞曲」パートナーシップ関係にあり、あらゆる(音楽)物語の代弁者でもある。
アビーロード大部屋にてオケを録音したのは Jonathan Allen。
『レ・ミゼラブル』でオスカーを受賞したエンジニア、プロデューサー。
オーケストラ、合唱団、編曲家、指揮者、作詞家、エンジニア、
すべてのスタッフが揃って、はじめて鷺巣の音楽は成り立つ。
この素晴らしい仲間たちに、今回もまた深謝!!


03 Masterplan, Metalopera

オーケストラを引き裂くように君臨するリズムを操るのは CHOKKAKU。
同業者でありながら、鷺巣は「大編成」派、CHOKKAKU は「Guitar支配によるバキバキのリズム」派。
ゆえに「最強の同居」が、ここに成立した。題して「メタル=オペラ」。


04 God have Mercy

定番の言辞「God bless you」「God have Mercy」。
ことに前者は、われわれ日本人にもお馴染みだが「なぜ三人称なのに動詞変化しないのか?」と
疑問を持たれた方もいるだろう。
25年前、ゴスペル・クワイアの面々から別れ際に「God bless you!」と挨拶された鷺巣は、意を決してたずねた。
「何言ってんのよ『(May) God bless you』でしょ」
はいゴメンナサイ。「神様には人称が無いのかな」なんて勘ぐったワタシが馬鹿でした。


05 Rise up, Rhythmetal

スーパー・ヒットメーカー CHOKKAKU!!
チャートを制すアレンジャーほどアップデートされてしまう現実…
だからこそ、そこにとどまる「勇気、実績、実力」すべて備えた者が賞賛される。
がしかし、大型台風が毎年くるように、チャートの厳しさとは、その強風ド真ん中に立つ者にしか理解しがたい。
CHOKKAKU というアレンジャーの「超絶っぷり」「凄み」は、鷺巣には痛いほど良くわかる。
今回『-metal-』と前後タイトルされるすべてのトラック群における、
CHOKKAKU による超絶ものスゴい仕事っぷりは、際立っている。


06 The Original Sin

クラシックのように演奏技術を磨きに磨いて成り立つ分野において、陥りやすいのが、大衆との認識「乖離」だ。
たとえばヴァイオリニストは、目を閉じて次々と難関ハーモニクスを決めるより、
和音をジャンと弾きながら見栄をきってポーズしたほうが、観客にはウケる。
もちろん同業者や大家からの評価も大切だが、客が入って湧かなければ打切られるのは映画ばかりではなかろう。
クラシックなど知らぬ層に「いかにもクラシック」と感じさせるハッタリ、
そこから飛躍して様式を撹乱する…これは映画音楽という分野においては、
必須ともいうべき表現なのかもしれない。


07 Boule de cristal, piano

ピアニスト宮城純子とは、もうかれこれ40年近くも一緒に仕事をしている。
鷺巣が手がける映像音楽でピアノを弾いているのは、ほとんどが彼女だ。
それほど彼女のピアノは、あらゆる映像に見事にハマる。
まさしく鷺巣と映像との媒体的な存在だ。
長い付合いながら、彼女が「平成ガメラ特撮」の大ファンであることを最近はじめて知った。
そこで「ヱヴァQ」打上げ会場にて、遅ればせながら樋口真嗣監督を紹介した次第である。


08 For the dead

日本で「オーケストラ」と言えば、さも「大編成楽団」の代名詞として用いられるが、
本来オーケストラとは、場所を示す名詞。
舞台と客席の間に位置し、物語を彩る(いろどる)伴奏者たちが生演奏をする場所。
ある意味、舞台以上にめくるめく臨場感にみちた濃密空間だ(オケピットなどと呼ぶなかれ)。
たとえば我がパリで、レストランやクラブの軒先に「Orchestre」と書いてあれば、それは「生演奏アリ」の意。
3人編成であろうが、300人編成であろうが、そのすべてをオーケストラと呼ぶ。
監督および作曲家のニーズに合わせ、つねに「拡大収縮自在」なのがオーケストラという形態。
物語に寄りそうまま自由に鳴らしてこそ、オーケストラたる所以である。


(続きは、ぜひCDブックレットをお読みください。毎度おなじみのオーケストラ・スコア付きです!)
Past
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